大学院に進学する

原泉
私立福岡舞鶴高等学校 普通科卒業→本学科13年度卒業→14年度〜九州大学大学院 統合新領域学府 ユーザー感性学専攻 感性科学コース 修士課程→16年度〜大阪大学大学院 生命機能研究科認知行動科学教室 博士後期課程在籍
※このインタビューは九州大学大学院在籍当時に行われました。

―現在の職業・活動について―
 私は現在、九州大学大学院の感性科学コースで、人の視覚に関する研究を行なっています。
感性と科学、と聞くと正反対の分野なのではないかと考える方が多いのではないでしょうか。「理系」と「文系」という区別が高校にもありますよね。「感性」という領域は、科学の世界では曖昧な意味を持つ概念としてあまり取り扱われてこなかったものでした。しかし近年、科学の世界でも、だんだんと人の感覚や感情のメカニズムを解明しようという動きが高まってきたことにより、それまで対極にあると思われてきた「感性」と「科学」という概念の深いつながりが現在進行形で発見されています。
私はそんな感性科学コースで「人はどのようにしてものをみているのか」ということをテーマに、眼の生理学的な仕組みや心理学に関する理論を学んだり、実際に人間の脳波を測定する実験を行なったりしています。正直、初めて飛び込んだ領域なので、授業の内容についていくのが大変なこともあります。それでも、毎日新しい研究が発表されているこの「感性科学」という領域はとても刺激的でもあります。
 私がこの道を選んだのは、所属していたゼミの先輩方が、他大学の大学院へ進学しているのをみて、漠然と憧れを抱いていたのがきっかけでした。 大学3年生になると、「私も先輩方のように専門的な領域の知識にとどまらず、これまでに学んだことのない学問についても知りたい」という思いが徐々に膨らんでいきました。そんなとき、九州大学の感性科学コースの存在を知ったのです。
 芸術大学で過ごしていると「感性」という言葉を少なからず耳にする機会があります。しかし私はこの言葉を好きにはなれませんでした。それは自分も含めて「感性」を「逃げの言葉」として使っていたからです。きちんと説明出来ないけれど、なんとなく便利だから、という理由で使われていた言葉でした。
 しかし、「人がものをみること」を研究テーマにしている私が、感性が何なのかを説明できないというのは非常に情けないことなのではないか、と考えるようになりました。自分がいままでアートプロデュース学科で学んできたことに加え、新たに科学という武器を手に入れて「感性」に立ち向かってみようと考えたのです。  そのような動機で大学院受験をし、現在「感性」についていろいろな面から攻めているのですが、まだまだ知識の乏しい私には難攻不落の大きな城のように感じます。しかし、その攻防がとても楽しいです。


―ASP学科で学んだこと―
 年間を通じて行われる、「対話を通した鑑賞教育」を受講し、鑑賞者として、そして作品と鑑賞者を繋ぐファシリテイターとしての力をつけました。「Art Communication Project (ACOP)」と呼ばれるこの授業は、「みる・考える・話す・聴く」を駆使して、美術作品をグループで鑑賞していくというものです。ACOPは、主体的な学びを通して専門知を獲得すると同時に、論理的思考力や言語の発達促進にも有効であることが証明されています。この授業で私は、芸術における鑑賞者の重要性、他者とのコミュニケーションを介することで作品に対する解釈が幾通りにも変化すること、そして常に物事に疑問を持ち、考え続けることの重要さを学びました。
 さらにこれは芸術鑑賞に限らず様々な場面における対人関係に有効であり、「生きる力」を養うためのプログラムとなりうるのではないかと考えています。
 私はこの授業をきっかけに、人が美術作品をみるときに起きる現象やその仕組みに焦点を当てて、研究や実践を行なってきました。


―ASP学科の在校生・これから入学されるみなさんへ―
 もしもタイムマシンがあって、アートプロデュース学科に入学した18歳の頃に戻って「4年後の私は大学院に通っているよ」と言ったら、当時の自分は絶対に椅子から転げ落ちるくらいびっくりすると思います。当時は勉強が大嫌いでしたし、脳科学や神経科学とは絶対に関わることはないと考えていたからです。
 自分の心の中にどんな変化が起こるかまったく分からないのが、大学の4年間です。特にアートプロデュース学科は人数が少ないぶん、人間関係がものすごく濃いため、毎日むさ苦しいくらいの刺激を受けます。そして授業内容も「え!こんなことまで授業で学べるの?」というくらいバラエティーに富んでいます。さながら毎日バイキングで食事をしているような気分です。ときどき胸やけするときもありますが、美味しいところを好きなだけつまめる、という恵まれた環境だと思います。

 学科の教授に言われて心に残っている言葉があります。
 「得意じゃないから、しないというのはダメです。やっていくうちに得意になっていくから。好きじゃないから、しないというのもダメです。やっていくうちに好きになっていくのだから。」

 食わず嫌いはもったいないです。

 


(2016/04 更新)