美術館で働く
高橋洋介
本学科09年度卒業→10年度〜東京藝術大学大学院美術研究科(先端芸術表現専攻)→12年度〜青森県立美術館(エデュケーター)勤務→14年度7月〜金沢21世紀美術館(学芸員)勤務

―現在の職業・活動について―
 金沢21世紀美術館に学芸員として勤務しています。着任早々に挑戦の機会をいただき、「初音ミク」という架空のキャラクターのDNAと細胞を設計する展覧会『Ghost in the Cell』を企画、運営しました。iPS細胞やゲノム編集など最新のバイオテクノロジーを用いただけでなく、遺伝子組み換えに関する国際的な法律や生命倫理、特許、著作権など多岐にわたる複雑な権利関係の整理を行なうなど現代アートという分野の壁を超えて世界初の試みを実践する大きなプロジェクトでしたが、さまざまな方や企業からあたたかい協力をいただき、無事、実現することができました。また教育普及業務としては、「3.11以後の建築」展で、コミュニティデザイナーの山崎亮さん企画のもと403architecture [dajiba]やdot architectsら若手の建築家たちと公募展の新しい枠組みや市内の全中学校をめぐり美術教育の課題解決を提案するプロジェクトをおこないました。市民ボランティアとの共同企画、幅広い年代にむけたワークショップ、対話型鑑賞などをこなしながら、上記のような企画やプロジェクトの運営を同時並行でこなしています。


―本学卒業後、現在の仕事にいたるまで―
  東京藝術大学大学院修士課程に進学し、「ポストヒューマン」という科学思想と芸術の関係性を研究しました。大学院では、美術史家の伊藤俊治教授のもと現代美術の研究をおこないながら、世界的に有名な現代美術作家の杉本博司氏やギャラリストの小山登美夫氏らをお招きして特別講義を開催したり、森美術館理事の飯田高誉氏のキュラトリアルアシスタントとして堂島リバービエンナーレ2011「Ecosophia」の企画・運営に参加しました。大学院卒業と同時に、青森県立美術館学芸課に就職し、『超群島』展『奈良美智:あおもり犬帽子プロジェクト』などの担当を務めました。金沢21世紀美術館の公募では、このような研究・実践の積み重ねが認められ、内定が決まりました。


―ASP学科で学んだこと―
 すべての授業が役に立っています。さまざまな先生方の講義を通して東西の美術史や写真史を体系的に学べたことも、ゼミでの指導や校外活動も、ACOPで対話型鑑賞教育を実践したことも、教職課程の教育学や、学芸員過程の博物館学、哲学や環境学や経済学などの美術以外の講義、ARTZONEなどの課外活動も、学んできたことのすべてが仕事を通して絶えず思い出され、見返され、いまに生きていることを強く感じます。
 大学の授業と課外活動で得た知識や経験は、美術館での展覧会の運営にも通じるものであり、自分のアイデアを現実に変えたり、ものごとに柔軟に対応したりするための基礎的な力になっています。また、当時はあまり理解できていなかったのですが、大学院進学以降、より社会と密接に関わり仕事をするようになってから、特に対話型鑑賞教育(ACOP)の講義が、他者を信頼して良い意味で批判し合い、誠実に議論し協力しあうための基本的な心構えと技術を教えてくれていたことを改めて実感しています。


―学生のみなさんへ―
  大学生活は、自分に投資して能力を十分に伸ばせる貴重な時期だと思います。直感を信じて、ひとりの時間を大切にして、日々、技術や知識に磨きをかけ、手を差し伸べてくれる人たちへ感謝し、責任をもって自分のアイデアをすこしでも形にできるようにベストを尽くすことを続けていけば、将来、大学生活で積み上げてきたことが必ず役に立つと思います。愚かといわれようと失敗を恐れず、自分がやりたいと感じたことを実現するために行動すれば、きっとうまくいくはずです。限りある学生生活だからこそ、その時間と立場を存分に活かして貪欲に楽しんでください。


(2015/12更新)